2023/04/19 10:17

ブラインドからうっすらと朝の優しい光が漏れてくる。

時間を見ると5時30分。もう少し眠れるな。

ゆっくりとまた眠りの中に誘われようとすると

物音が聞こえた様な気がする。

 

隣の大家さんが朝早くにどこかに行く準備でもしているのか?

 

ウトウトしていると今度は物音がはっきりと聞こえたような気がする。

少し怖くなってきたので目が覚めた。

 

トイレで用をたして部屋に戻ると近くでエンジンの始動音がした。

 

!?

 

私の愛車『夕焼け1号』(軽自動車)の音だ。

 

ブラインドから外を覗くと知らない人が『夕焼け1号』に乗っている!?

 

思わず『おはようございます』と言いそうになったがそんな場合ではない。

ダッシュで外に出て発車前の車のドアを開けるとエンジンがかかった車の中で

泥棒はシフトレバーに手をかけシートベルトをしていた。

 

『何してんだよ!』と興奮気味の私。

 

シートベルトをはずして車の外に出す。

 

『警察呼ぶからちょっとこっち来い!』

 

携帯電話は部屋の中にあるので店の入り口まで連れていく。

泥棒には店の中に入って欲しく無かったのでお店の入り口で

 

『ここで待ってろよ!逃げんなよ!!』とまだ興奮気味の私。

 

お店を通って住居スペースに携帯を取りに行く最中も

少し歩いては振り返り泥棒が逃げないか確認する。

 

だるまさんが転んだ状態。

 

いつでも逃げれる状況なのに私が携帯を持って来るまで入り口で待っる。

 

携帯電話から警察に連絡しようとすると『ひゃくとうばん』って何番?

電話番号がとっさに出て来ない。そして足もとはずっと裸足だった事に気が付く。

 

少し冷静になってきたので110番にダイヤルして警察に事情を話し

泥棒と2人でお店の前でお巡りさんを待つ事になった。

 

いきなりの出来事に頭が混乱してタバコが吸いたくなった。

 

『ちょっとタバコ取って来るからここで待ってろ!逃げんなよ!』

とまるでコントの振りのようなセリフを言ってタバコと健康の為に毎朝飲んでいるトマトジュースを取りに行く。

 

簡単に逃げれる状況なのにまたお店の前で待っている律儀な泥棒。

 

早朝に泥棒と私が店の入り口に腰を掛けタバコをふかしトマトジュースを飲んでいるシュールな光景。

 

なんだこの状況!?

ちょっと面白く感じて来た。

 

お巡りさんが6人ぐらいパトカーで来て色々話しを聞かれた。

この頃になると車を取られそうになった怒りもだいぶ薄れて来た。

 

車のドアをあけ『ここに鍵を置いてました』と指をさして写真撮影。

ボサボサ頭に汚いスウェット姿の私が早朝にパシャパシャと

立派な一眼レフのカメラで写真を撮られている。

 

気分はまるでアイドル。

 

だからなんなんだこの状況!

 

小1時間くらいで泥棒はパトカーに乗せられて警察署に連行。

あの律儀な泥棒がもう二度と車を盗まなければ良いと願うばかりです。